狂犬病予防接種が法律でも定められています。
はたして、これは儲かるのでしょうか?
答えは、、、。
①メーカーはそれなりに儲かります!
②動物病院はほとんど儲かりません。
①メーカーについてまず見ていきましょう。
1.新しい薬品(ワクチン)を開発する、いわゆる創薬ではないので、研究開発費がかからない。 あるいは、すでに長い年月で回収済みである。
2.宣伝広告費がほとんど不要。法律で義務付けられているから、宣伝しなくても売れる。
3.販売数が安定しており、しかも大きい。
*犬の登録数は年度によって推移はあるものの、急激な変化はしない。
何よりも、直近では450万頭もの犬が接種を受けている。

4.特定のメーカーに限定されているため、ある一定のシェアが確保されていて、
あまり競争が激化していない。
ワクチンには基準、認定があり、年間の販売量も限られている。また、開発費はすでに元が取れていることから、既存のメーカーには勝てず、新規参入障壁が高い。つまり、ライバル会社が増えない。

以上より、基本的には『儲かる』と言えます。
ただ、皆さんが思っているよりは儲かりませんし、メーカー側は儲かっているという自覚がありません。
単価が低く、非常に安い(ここでは書けません。ごめんなさい。)ので、総利益としてはさほどではないことがひとつと、伸びしろがないことが理由です。
②では、つづいて、動物病院側はどうでしょう?
よく、動物病院、あるいは獣医師が、「狂犬病予防注射は営利目的でやっている。既得権益を損なうのが嫌だから、予防接種を推奨している。ぼろ儲けだ。」などと叩かれています。
なるほど。
確かに、利益はありますので、営利目的ではあります。
当然です。
獣医療とはいえ商売ですから。
生活がありますし、利益がないとそもそも動物病院が運営できませんからね。
ただ、既得権益を損なうのが嫌だからやっているわけではないですし、ぼろ儲けではありません。
ここでまず、動物病院のコストについてお話ししましょう。
一番かかるのはズバリ人件費です。
仮に、獣医師の時給を1,500円とします。
次に動物看護士の時給を1,000円、受付も同様に1,000円。
この3人で運営しているとします。
すると、1時間に3,500円の人件費がかかるわけです。
当然ですが、時給のほかに健康保険、厚生年金、雇用保険、労災、各種保険、テナント代、水道光熱費、医療機器などの設備費、医療品原価があります。
複雑になるので、結論だけ言います。
スタッフ3人の場合、1時間当たり1万円の売り上げがないと、確実に赤字です。
狂犬病だけではないのですが、『ワクチン接種』というのは、正直、メンドクサイのです。
1.来院してから、落ち着くまで待合室で待機
2.ワクチンの説明(アナフィラキシー、副反応、有害事象など)
3.問診と簡単な診察
4.ワクチン接種
5.待合室で数分から数十分様子見
6.ワクチン証明書の発行
7.再度、副作用などがないかどうかの確認と、自宅での異変時の対応の説明
これらを実施しないといけません。
狂犬病の予防注射の場合、動物病院によっては行政への届け出代行などもやっていると、
とてもやってられません。
しかも、狂犬病ワクチンや混合ワクチンにいらっしゃる方は少しだけ手がかかることが多いのです。
普段、動物病院に通院しておらず、年に一回だけ通院される方が多いからです。
動物病院慣れしていない犬は抑えるのが大変です。
これは、犬も慣れていないですし、獣医師や動物看護士もその犬に慣れていないというのがあります。
また、説明も常連さんではないので、少し時間がかかります。
狂犬病予防注射を1件やっていると、時間は15分から30分くらいかかりますので、正直なところ、3,000円以下では完全に赤字計算です。
では、なぜやるのか?
1.狂犬病予防接種の際の啓蒙活動によって、動物病院の来院頻度を上げる(宣伝広告戦略)。
実は、これがめちゃくちゃ大事で、これのためだけでもやる価値はある。
2.予防接種時の診察で、他の病気や健康相談から、売り上げ単価の向上につなげる(売上単価の上昇に伴う利益の確保)
3.徹底した時間効率を図り、安価でも採算が取れる努力をして利益につなげる(薄利多売戦略)
4.やらないよりは売り上げが上がる(遊休時間減少による効率の上昇)
法律で義務付けられていることであり、世界的な感染症の予防という疫学的な重要性からして、言ってはいけないことなんだろうけど、私なら、あまりやりたくない分野に入ります。
言い方に問題があるのはわかってますが、割に合わないし、メンドクサイ、リスクもあるというのが正直なところ。
まぁ、儲かりませんよ、狂犬病予防接種は。
これ以上、獣医療における診療単価の減少を抑えるためには、安易に安価でワクチン接種というのは止めたほうがいいと思いますけどね。
結論!
狂犬病予防接種は獣医師にとって、ほとんど儲かりません(売り上げはちょっと上がるけど)