中毒とは
有害物質を摂取(口からだけとは限らず、皮膚や眼の結膜など、様々)することによって、身体に出る悪い反応(有害反応)のことをいいます。
毒に中たる(あたる)と書いて、中毒なわけですが、「毒」かどうかは、『結果として有害反応が出たかどうか』によって言い方が変ります。
つまり、良い結果が出れば『薬』であり、悪い結果が出れば『毒』というわけです。
ただ、あくまでも物質の性質によって引き起されるものに限定されるため、針や串など、物理的な有害反応は除きます。
通常は、生物学的・化学的作用によって起こされるものに限定されると思われます。
動物にとっての毒
何が毒になるのかは、動物によって異なります。
人間では食べても大丈夫なのに、犬や猫ではダメ・・・というものはたくさんあります。
細かく、犬種によってはダメというものもあります。
これは、単にその物質の違いが問題になることもありますし、量が問題になることもあります。
例えば、犬や猫で、チョコレート中毒は有名ですが、実は人間もチョコレート中毒になります。
ただし、あまりにも莫大な量のチョコレートを食べないと起きず、現実的ではないため、「中毒物質」には含んでいません。
これが、典型的な量の問題です。
一般的に、「感度・感受性」と呼び、その物質に対して感受性が高い動物が中毒を起すことになります。
たいして、物質そのものの問題の例は、たぶんブドウなどが挙げられます。
人間ではブドウはたぶん問題ありませんが、犬や猫では急性腎不全を起すことがわかっています。
正確な実験データがないだけで、人間も大量に摂取すればわかりませんが、、、
今のところは、中毒物質では無いといわれています。
これは、動物種による違いの例となります。
特定の解毒するための代謝経路を欠いていたり、動物種の特性によって分解できないなどが要因であることが多いです。
動物を飼うときには、その動物が摂取したら中毒になる物質はリストアップしておくと良いでしょう。
人間を基準にした思い込みは厳禁です!!
量で問題になることがあると述べましたが、一般的に『薬』と呼ばれるものも、大量に摂取すると中毒を起すものがあります。
コーヒーは少量では健康に有益でも、大量摂取はカフェイン中毒などの有害性が発現します。
アルコールも少量は健康に有益ですが、大量摂取は肝障害を起します。
たいていは、どんな物質でも大量摂取すると中毒を起すと覚えておきましょう。
『水』ですら、大量摂取による水中毒が起きます。
中毒量
中毒量について述べます。
当然ですが、「中毒を起すかどうか」の判定に役立ちます。
用量依存性の場合は、どのくらいの強さ・長さの中毒レベルになるかの重症度予測にも役立ちます。
中毒症状をひきおこす薬物の量
TD(toxic dose) と言われます。
なお、なんの作用もでないものを無効量、
薬効作用を示す有効量(effective dose:ED)と言います。
このほか、様々な用語が定義されており、紹介しきれません。
LOAEL:Lowest Observed Adverse Effect Level(最小毒性量)
毒性試験において有害な影響が認められた最低の暴露量をさします。
あまり見かけることのない言葉ですが、実は非常に重要な数値となります。
実際に、犬や猫が何かを食べてしまったとして、どのくらいなら中毒を起さないか?という目安としては最も知りたい数値です。
例えば、この数値が 10だとして、実際に食べたのが3であれば、中毒になる最少量の1/3以下ということになり、なんとなく安全な印象がでます。
絶対安全域とは言えないところが重要です。
各種中毒量を表わす指標
LOAEL:Lowest Observed Adverse Effect Level(最小毒性量)
毒性試験において有害な影響が認められた最低の暴露量。
LOEL:Lowest Observed Effect Level(最小影響量)
最小作用量ともいう。
毒性試験において何らかの影響が認められる最低の暴露量。影響の中には有害、無害両方を含むので、一般には LOAEL に等しいかそれより低い値である。
MOE:Margin of Exposure
今の暴露量がヒトの NOAELに対してどれだけ離れているかを示す係数で NOAEL/暴露量により算出する。
この値が大きいほど安全への余地があるということを示している。
なお、動物実験の結果から求められた NOAEL の場合には、NOAEL/暴露量/10 により算出する。
TCLo:Toxic Concentration Lowest(最小中毒濃度)
ヒトまたは動物に中毒症状を引き起こさせた吸入による暴露濃度のうちの最小値
TDI:Tolerable Daily Intake(耐容 1 日摂取量)
健康影響の観点から、ヒトが一生涯摂取しても影響が出ないと判断される、1 日当たり体重1 kg 当たりの摂取量。
TDLo:Toxic Dose Lowest(最小中毒量)
ヒトまたは実験動物に中毒症状をおこさせた吸入暴露以外の経路による投与量の最小値。
致死量
致死量について述べます。
これによって、予後・転帰(亡くなるのか助かるのか)といわれるものが判断しやすくなります。
ここで注意しなければならないのは、死ななかったからといって無事とは限らないということです。
*なんらかの重篤な後遺症が残ることはむしろ自然です。
半数致死量
LD50:Lethal Dose 50(半数致死量)
1 回の投与で 1 群の実験動物の 50%を死亡させると予想される投与量。
おそらく、理系、医療系であれば一度は聞いたことがある有名な指標です。
中毒といえば、むしろこれが最も注目される項目かもしれません。
同じ動物であったとしても個体差があります。
感受性の違いによって、同じ量を暴露させたとしても、生き残る個体もいれば死んでしまう個体もいます。
ほんの少量で死んでしまう個体もいれば、大量でも生き残る個体もいます。
実際の獣医療では、この『ほんの少量でも死んでしまう個体』というのが最大の問題となります。
話が逸れましたが、要は、半数が生き残るくらいの毒の量をLD50(エルディーゴジュウ)と呼びます。
各種致死量を表わす指標
LC50:Lethal Concentration 50(半数致死濃度)
1 回の暴露(通常 1時間から 4 時間)で 1群の実験動物の 50%を死亡させると予想される濃度。
LCLo:Lethal Concentration Lowest(最小致死濃度)
特定の暴露時間での吸入によりヒトまたは動物を致死させた暴露濃度の最小値。
関連した報告値の中での最小の致死濃度(Lowest Published Lethal Concentration)の意味に用いられることもある。
LD50:Lethal Dose 50(半数致死量)
1 回の投与で 1 群の実験動物の 50%を死亡させると予想される投与量。
LDLo:Lethal Dose Lowest(最小致死量)
ヒトまたは動物を致死させた吸入暴露以外の経路による投与量の最小値。
関連した報告値の中での最小の致死量(Lowest Published Lethal Dose)の意味に用いられることもある。
作用量と無効量
薬(あるいは毒)が薬効(中毒)作用を及ぼす際に、必要とする量を作用量、全く効果を発現しない量を無効量と言います。
作用量と無効量の指標
一部、前述と重複しますが列記します。
ADI:Acceptable Daily Intake(1 日許容摂取量)
健康影響の観点から、ヒトが一生涯摂取しても影響が出ないと判断される、1 日当たり、体重1 kg 当たりの摂取量。
コストと便益にもとづいた概念で、農薬や食品添加物の残留基準の設定に用いられ、ここまでなら許容できる量を示すもの。
BMD, BMC:Benchmark Dose (BMD) , Concentration (BMC)(ベンチマーク用量あるいは濃度)
用量-反応関係の曲線から計算されるある割合の有害影響を発現する用量(あるいはその上側信頼限界値)をベンチマーク量として、無毒性量や最小無毒性量の代わりに用いる方法。
LOAEL:Lowest Observed Adverse Effect Level(最小毒性量)
毒性試験において有害な影響が認められた最低の暴露量。
LOEL:Lowest Observed Effect Level(最小影響量)
最小作用量ともいう。
毒性試験において何らかの影響が認められる最低の暴露量。影響の中には有害、無害両方を含むので、一般には LOAEL に等しいかそれより低い値である。
MOE:Margin of Exposure
今の暴露量がヒトの NOAELに対してどれだけ離れているかを示す係数。
NOAEL/暴露量により算出する。
この値が大きいほど安全への余地があるということを示している。
なお、動物実験の結果から求められた NOAEL の場合には、NOAEL/暴露量/10 により算出する。
TDI:Tolerable Daily Intake(耐容 1 日摂取量)
健康影響の観点から、ヒトが一生涯摂取しても影響が出ないと判断される、1 日当たり、体重1 kg 当たりの摂取量。
TDLo:Toxic Dose Lowest(最小中毒量)
ヒトまたは実験動物に中毒症状をおこさせた吸入暴露以外の経路による投与量の最小値。
その他指標
EHE:(Estimated Human Exposure:ヒトへの推定暴露量)
化学物質の暴露量を計算する際、呼吸や食事の量、体重などの数値が一律であると仮定し、推定した暴露量のこと
中毒リスクの評価
動物種と個体差があることは述べましたので、単純に「中毒量以下であれば大丈夫」というものではないことはおわかり頂けると思います。
「中毒量には満たないはずなのに、中毒を起してしまう個体」が出るからです。
これは、致死量においても同じことが言えます。
『全然、中毒量でもないのに、動物病院で催吐処置を行なったり、治療を行なう』という理由がここにあります。
ここで、安全域評価というものを考えていくことになります。
前述の指標を用いて、リスク評価を行なっていきますが、大きくは2つの評価方法があります。
リスク評価には、一般的にHQ(Hazard Quotient:ハザード比)またはMOE(Margin of Exposure:暴露マージン)などの指標が用いられます。
HQ(Hazard Quotient:ハザード比)を用いた評価方法
HQ(ハザード比)は、EHE(ヒトへの推定暴露量)とTDI(耐容一日摂取量)の大小を比べたものです
HQ(ハザード比)= EHE(ヒトへの推定暴露量) / TDI(耐容一日摂取量)
TDIは指標の説明で出て来ましたが、ここでもう少し詳しく説明します。
TDI:ヒトが一日当たりに摂取しても安全な量であり、動物試験などで求められたNOAEL(無毒性量)をUFs(不確実係数積)で割ってヒトへの無毒性量としたものです。
UFs(不確実係数積)
もっとも大事な指標となります。
動物種の違い、固体の感受性の違いによって、どうしても安全域に幅がでます。
この安全域の幅をどのように推測するかが非常に重要です。
一般的には、動物とヒトの違いである種差(×10)と、感受性の違いである個人差(×10)を考慮した100を基本の値とします。
*不確実係数『積』となっているのは、文字通り2つの不確実係数UF(10)をかけているからです。
動物試験の期間、信頼性などの項目別に不確実なもの(投与経路・投与回数・投与期間など)があれば、さらに係数を追加します。
逆に、犬のデータがあるのであれば、種差(×10)は不要です。
なお、LOAEL(最小毒性量)の使用では、以下となります。
10:LOAEL(最小毒性量)からNOAEL(無毒性量)に換算している場合
1: NOAEL(無毒性量)使用時
MOE(Margin of Exposure:暴露マージン)を用いた評価方法
MOE(暴露マージン)は、NOAEL(無毒性量)とEHE(ヒトへの推定暴露量)の大小を比べたものです。
MOE(暴露マージン)= NOAEL(無毒性量) / EHE(ヒトへの推定暴露量)
NOAELは動物試験などで求められたものであるため、MOEの値にはヒトに対する無毒性量(不確実性の考慮)が含まれていません。
それゆえ、その値をUFs(不確実係数積)と比較し、それと同等か小さい場合は「リスクの懸念あり」、大きい場合は「リスクの懸念なし」と評価します。
中毒危険量
長々と記載してきましたが、大事なことは、UFs(不確実係数積)だと思っています。
つまり、安全域を十分に取ることが最も大切であり、中毒量に満たないから大丈夫という慢心はしないということです。
UFsは動物種差で10倍、個体差で10倍の係数を見込んでいます。
実験データが犬・猫であれば、10倍で済みますが、ネズミや人間などのデータの場合、種差の10倍も考慮しなければなりません。
つまり、100倍は不確実性として認識し、安全マージンを取る必要があるということです。
最小中毒量に対して安全域を取るとなると、相当だと思われます。
筆者は、ほんの少量でも中毒物質を摂取した場合に来院を促し、催吐処置や治療を実施することにしているのはこういったことを根拠としています。
生命にコスパという概念を持ち込むことは好きではありませんが、
コスパやリスクバランス(催吐処置も治療も、それ自体にリスクがある)を考えたりして、獣医師によって判断は分れるかと思います。
一概に、どれが最適解なのかは正解がないのが難しいところです。
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執筆 K-VET


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