肝臓・胆嚢の評価

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肝疾患の特異的症状

肝臓において、本当に特異的といえるものは、黄疸以外にはないといわれています。

症状は様々で、かなり曖昧であり、何の症状も示さないこともあるため、診断と評価は難しいといえるでしょう。
そのため、『症状があって、肝臓疾患を疑う』というよりも、検査によって、『肝臓を疑うような検査所見が見つかってから、肝臓疾患を疑う』ことが多い印象です。
*一部中毒などの肝臓疾患を懸念するような事前情報は別です。

黄疸があった場合の思考

教科書的には、肝前性・肝性・肝後性で考え、肝前性を除外することが大切です。

肝前性=溶血性黄疸ですから、溶血を以下で否定します。
・貧血の有無や程度
・血液塗抹による観察(溶血像、網状赤血球など)
・赤血球凝集反応
・クームス試験

溶血性黄疸を否定できれば、あとは肝実質性(肝性黄疸)か、肝外胆管閉塞(肝後性黄疸)を疑うことになります。
膵炎による肝外胆管閉塞は多いため、同時に膵臓の評価を行う必要が生じる。

個人的には、超音波検査によって、これらを識別すると同時に血液検査所見によって絞り込むのが有用だと考えています。

特異的ではないものの、多くの肝疾患で見かけることの多い症状

・元気消失
・食欲減退
・体重減少
・削痩
・腹部膨満
・多飲・多尿
・神経症状
・嘔吐・下痢などの消化器症状とそれに付随する行動(振戦、流涎、嗜眠など)

血液検査における肝臓・胆嚢系の項目

低下ではあまり意味がないため、増加のみを異常値としてとらえます。
基準値(正常値)の上限の何倍であるかで評価します。
特に、最低でも2倍以上であるときに、疾患を疑い、軽度上昇をもって異常と判断するのは早計です(猫のALP以外)。

2~5倍:軽度
5~10倍:中等度
10倍以上:重度

肝臓は、ほかの臓器の影響を受けやすいため、反応性肝障害で上昇する傾向がある。
特に、胃腸・膵臓・感染症・代謝性疾患・心疾患が注意が必要。

重度の肝障害では、出血傾向やDICにもなるため、血液凝固系の検査も有益です。

ALT/GPT

ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、主に肝臓の細胞質の中に多く含まれている酵素です。
肝細胞が何らかの原因でダメージを受けて壊れると、この酵素が血液中に漏れ出してきます。
いわゆる漏出性酵素(逸脱性酵素)であり、血液中のALTの数値が高いほど、肝細胞が多く壊れていると考えられます。
特に、肝細胞の細胞膜透過性を変化させるような、壊死や炎症が要因として大きいです。
最も肝臓特異性が高いといわれます。
感度60~70%、特異度80%

AST/GOT

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェナーゼ)は、肝臓・心臓や骨格の筋肉・赤血球に多く含まれる酵素の一種です。
漏出性酵素で、何らかの原因でダメージを受けると細胞が壊れて血液中にASTが漏出します。
このため、肝炎や脂肪肝、肝硬変、肝臓がんなどの肝臓の病気、心筋梗塞など体内の重要な筋肉がダメージを受ける病気、赤血球が破壊される溶血性貧血などの発見に有用です。
肝細胞の中のミトコンドリアにあるため、単に細胞質が破壊されるにとどまらないという点から、より重度の肝障害で漏出するともいわれます。
感度50~80%(猫で高い)、特異度70%

ALT・ASTの注意点

漏出性酵素においては、緩やかに変化するような疾患(肝硬変や慢性肝炎、門脈シャントなど)では上昇が顕著でないことが多い。
そのため、「今、激しく損傷している」という指標であり、肝機能をあらわす指標ではありません。

ALP/ALKP

アルカリホスファターゼ(ALP)はアルカリ性条件下でリン酸エステル化合物を加水分解する酵素です。
肝臓をはじめ、腎臓、骨芽細胞、胎盤、小腸など、広く全身に分布するため、肝臓だけとは限りません。
その大部分は胆管上皮細胞などの細胞膜上に局在しており、その一部が血清中に放出されて、わずかに存在しており、血清中に存在するALPのほとんどは肝臓型または骨型のALPとなります。
漏出性酵素ではなく、胆汁うっ滞などの刺激により産生が促進される、産生誘導型酵素となります。
血清中のALP濃度が上昇する場合には、これらの臓器の壊死や破壊に伴う修復活動として細胞再生が行われており、これに伴ってALPの合成亢進が行われ、血中への放出が進んだものと考えられます。
さまざまな臓器の損傷によってALP値の上昇が起こりえるが、主として肝機能の指標の一つとして扱われることが多いです。
注意点としては、犬ではステロイドで上昇(猫ではALP半減期が短いためほぼ誘導されない)となるため、投与歴が重要です。
感度70%、特異度50~90%(猫で高い)

GGT/γ-GTP

γグルタミルトランスフェラーゼ(GGT)は、肝臓の解毒作用に関与する酵素の一つで、腎臓や膵臓、腸にも存在します。
肝臓の機能を評価できるだけでなく、胆管や胆のうなどの病気の有無も推測できる検査項目です。
犬や猫では、大半が肝臓における産生増加に由来しています。
感度40~50%、特異度80%

ALPとGGTの違い

・感度と特異度の違い(犬ではALP、猫ではGGTが良好)
・GGTは骨では産生されない
・GGTは犬のてんかん薬で上昇しにくい
・GGTは犬では、副腎皮質機能亢進症(ステロイド内服含む)、空胞性肝障害(ホルモン系、脂質異常症含む)、肝腫瘍、結節性病変で上昇しにくい(ALPは著増)
・GGTは猫の肝リピドーシスで上昇が軽度(ALPは著増)
*どちらかしか上昇していない場合は、肝外胆道系疾患の可能性は低い

TBA/総胆汁酸

肝細胞においてコレステロールから生成され、胆汁を経て腸管内に排泄されます。
その大部分は腸管より再吸収され、門脈を通り肝臓に達するきわめて閉鎖的な腸肝循環を行っています。
一部が体循環(血液中)に漏出し、血清TBAとして計測されます。

NH3/アンモニア

正常であれば、門脈によって肝臓に運ばれ、オルニチン回路(尿素回路)によって尿素に変換(解毒)されて尿中に排泄されます。
つまり、肝臓以外の原因では、過剰にアンモニアが産生されるか、オルニチン回路が機能していないかのいずれかとなります。

BUN/血液尿素窒素

重度の肝障害では、アンモニアが上昇し、尿素窒素が減少することになります。
しかし、実際には食事や栄養状態、腎機能などの要因もあり、解釈が容易ではありません。

Glu/グルコース

肝臓は糖新生を行う臓器です。
そのため、肝臓が障害を受けると、糖新生が行われず、低血糖となることがあります。
しかし、鑑別診断では他が優位であり、感度・特異度ともに良いとは言えません。

Alb/アルブミン

肝臓のみで産生されます。
ただし、70%以上の障害を受けないと低アルブミン血症とはならないため、肝臓由来での低値であれば、それなりの重症度といえます。

低タンパク血症の原因はほかにもあるため、特異的とは言えません。

T-bil/総ビリルビン

赤血球由来のヘモグロビンから非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)が作られる。
これが肝臓において抱合型ビリルビン(直接ビリルビン)へと変わる。
総ビリルビンはこれらを合算したものとなります。

溶血性疾患を除外できた場合、重度の肝機能障害か、胆管閉塞を疑います。

特異度は高いが、70%が障害を受けないと上がらないとも言われています。
2.0 mg/dl以上で黄疸といわれることが多いです。

T-Cho/総コレステロール

HDLコレステロール値とLDLコレステロール値、中性脂肪値の1/5の合計値で算出されます。
人間においては、基準が見直され、総コレステロールでの評価はしていません。
総コレステロールに代わって「Non-HDLコレステロール」と「LH比」が用いられることが多くなっています。

コレステロールは、摂食物以外からは、肝臓で合成され、過剰分は胆汁へと排出されます。
そのため、肝機能の指標としての意義はあるのですが、解釈は極めて困難です。

TG/トリグリセライド

中性脂肪(トリグリセライド)は、体内にある脂肪の一種です。
体内で使われなかった脂肪は脂肪細胞や肝臓などに蓄えられ、その多くが中性脂肪です。
血液中では、空腹時には肝臓で合成されたVLDLコレステロールに主に存在し、食事によっては腸管から吸収された脂肪はカイロミクロンとして存在しています。
高値の場合、脂肪肝や脂質異常症などが疑われます。

膵酵素

肝臓の指標ではありませんが、鑑別のために必須といえると思います。
とはいえ、アミラーゼやリパーゼ、膵リパーゼ免疫活性(PLI)、トリプシン様免疫活性(TLI)などは、その感度・特異度や院内での実施の可否などが問題となっています。
夜間救急においては、迅速に検査するためにV-LIPなどが良いと思っています。

超音波検査、症状、V-LIPなどを組み合わせて膵炎の診断をするのが良いと思っています。

画像検査における肝臓の評価

エックス線検査

肝臓の大きさや形、位置をみるには、X線検査は、客観的で良い検査ではあるが、得られる所見が少ない。

正常な肝臓の評価(大きさ)

・胃軸が肋骨とほぼ平行
・肝臓の尾側は肋骨弓にほぼ収まっている

超音波検査

侵襲性が低く、即時的ではあるが、主観的データなのが難点。
結節性病変の有無や、血管系の異常など得られるものは多い。

肝臓の大きさ

肝葉の尾側端が鈍になっていれば、肝腫大を疑う。
右腎との接触面の増加もまた腫大を疑う。
辺縁が不整の場合は小さめのことが多いが、腫瘍の場合は大きくなるため、参考程度とする。
そもそも動物のサイズによって異なるが、主観的な感覚でも判断は可能ではある。

び漫性肝腫大
・ステロイド関連性肝障害
・肝リピドーシス
・急性肝炎
・胆管炎
・うっ血肝
・腫瘍
・アミロイドーシス

限局性肝腫大
・腫瘍
・嚢胞
・肉芽腫
・血栓塞栓症
・捻転
・血腫

小肝症
・先天性門脈体循環シャント
・原発性門脈低形成
・肝硬変
・肝線維症
・重度循環不全

エコー源性

周辺臓器との比較によって行う。
・肝鎌状間膜の脂肪のエコー源性は肝臓と比較して同じかやや高エコー源性を示し、やや粗いエコーパターンを示します。
・脾臓よりも低エコー源性
・腎皮質よりも高エコー源性

高エコー源性
・ステロイド関連性肝障害
・肝リピドーシス
・空胞性肝障害
・慢性肝炎
・肝線維症
・肝硬変
・リンパ腫
・肥満細胞腫

低エコー源性
・うっ血肝
・急性肝炎
・急性胆管炎
・リンパ腫
・組織球性腫瘍
・アミロイドーシス

混合パターン
・結節性過形成
・肝炎
・肝細胞性腫瘍
・壊死
・アミロイドーシス

血管系の評価

門脈と静脈を並走する形で描出可能です。
リファレンスマークを標準位置とするならば、カラードップラーで色分けが可能です。

肝門部:門脈径(PV)/腹大動脈径(Ao)<0.65 であれば、肝外性の先天性門脈体循環シャント(cPSS)が疑われる。
右側前腹部:門脈、後大静脈、腹大動脈の長軸断面で、シャント血管の起始部や流入部が確認できることがある(34%)
左側前腹部:後大静脈の長軸断面から右胃動脈から派生するシャント血管を描出できることがある。
肝内門脈:追いかけていくと、肝内門脈が細くなるはずが細くならず、ループを形成して静脈系の血管と吻合しているのが確認できる。

腫瘍病変・結節性病変の存非

超音波検査では比較的容易に見つけやすいため有用です。
注意すべきは全域をくまなく走査することです。
良性結節性過形成は高齢犬では多いため、注意が必要です。

胆嚢

胆嚢壁:犬2~3mm 猫1mm以下
    胆嚢炎では、厚くなる。
総胆管:犬3mm以下 猫4mm以下

膵臓

厚さ:犬3.5~15mm 猫5~9mm(膵体部、左葉)、3~6mm(右葉)
膵管:犬0.1~1.2mm 猫0.5~2.5mm

急性膵炎では、腫大、辺縁不整、低エコー源性となることが多い。
また、周辺に炎症が波及し、脂肪織炎や死亡壊死により高エコー源性となると、よりコントラストが明瞭となる。
急性膵炎時の超音波検査の感度は犬で68%、猫で11~67%

CT検査

シャントの診断や腫瘍の評価においては、実施を検討すべき。
夜間救急では、実施意義は高くはないかもしれない。
膵臓や他臓器の評価もできる上、外科になった場合の有用性は高い。

生検・試験開腹

生検をするのは、肝臓以外の疾患をしっかりと除外することが大前提です。

試験開腹は、個人的な見解としては、比較的積極的に行ってよいと思います。
もちろん、腹腔鏡があれば、そちらを優先です。
肉眼的に観察することの有用性は非常に大きく、ほかの画像検査では異常が認められなかったにもかかわらず、目視で一発!ということを何度か経験しています。
*色はともかく、質感や辺縁鈍、結節など、だいぶ画像検査で明瞭となってきていますので、アップデートは必要だと感じています。

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