犬や猫が下痢の際に、下痢止めは適正か?

疾病と治療
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先日、夜間診療を行なっていた際に、「下痢の時に、下痢止めは良くないって聞きました。整腸剤と補液が良いって主治医も言ってました」と仰る飼い主さんが来院しました。

飼い主さんに対しても、かかり付けの動物病院さんも、素晴らしいなと思いました。

しかしながら、夜間救急において、筆者は頻繁に下痢止めを使用します。

今回は、飼い主さんにご説明した内容と、ほぼ同様のことをご説明したいと思います。
ただし、筆者の意見は、いち獣医師としての意見であり、唯一絶対の正しい答えではありません。
状況が変れば答えは変ります。
あくまでも、夜間救急の、筆者の考えとなります。

基本的には、普段診て頂いているかかり付けの獣医師さんのご指導に従うようにお願いします。

犬や猫の下痢に対して、なされる主な治療

いくつか選択肢があり、状況に応じて使い分けます。
しかし、原因に対して治療を行なうことが大原則です。

なので、ここでは、原因不明の急性下痢を夜間救急で治療する場合に限定していきます。

動物の下痢の時に筆者が使用する薬剤

・抗生剤
・止瀉薬(下痢止め)
・整腸剤
・消化酵素
・利胆剤
・ビタミン剤
・止血剤
・消炎剤
・鎮痛剤
・補液(経路や内容は様々ですが、ざっくりと水分・電解質補給)
・胃酸分泌抑制剤
・粘膜保護剤
・療法食(処方食):高栄養や低脂肪、高線維など様々なものを選択します。
ざっと思い付くだけで、これくらいでしょうか。

実際に、パッと思い付いたものを適当に羅列しただけですが、、、
現実的には、これほどの選択肢を想定することはありません。

日中のかかり付け医と、夜間救急の立場の違い

夜間救急においては、より早く、確実に効かせるために、注射剤がメインとなります。
また、長期管理を前提とした薬剤は、
「朝、主治医の元を受診するまでの治療」
を本懐とする夜間救急においてはあまり使用されません。

もちろん、長期管理を前提とした治療において、初動を数時間でも早くするために治療開始を判断することはあります。
しかし、「治療方針を決定するのは主治医」であり、「主治医を受診するまでの間に最善を尽くすのが夜間救急」なのです。

そのため、前段階としての検査なども方針は異なります。
これは立場の違いです。

実際に、夜間救急は、一通りの検査を実施することが多く、治療も「応急処置」「救急対応」「対症療法」に終始することが原則です。

野球のピッチャーで、先発・中継ぎ・クローザーと役割が違うのと同じです。

一次診療と専門医・大学病院・高度医療センターが役割が異なるのと同じですね。
したがって、主治医と夜間救急で、治療や方針が異なるのは当然です。

主治医と夜間救急の治療が異なることに気付き、疑問を投げかけてきてくれた飼い主さんは慧眼があると思います。
疑問を素直に仰って下さるのは大変ありがたいですね。
インフォームドコンセントの観点からも重要だと思います。

実際に使用する下痢の時の治療薬

では、上記にリストアップした薬剤で実際に用いないものがあります。
筆者は複数の夜間救急動物病院にて診療にたずさわっておりますので、各動物病院によって様々ではあります。
しかし、いずれも「内服薬の処方はしない」というのが共通してありますので、『整腸剤』や『処方食』は除外されることになります。

注射薬がないもの(消化酵素など)も除外されることになります。

夜間救急動物病院で整腸剤を使用しない理由

整腸剤に即効性は期待できません。
長期的に、腸内細菌・環境のバランスを整えるためのものですから、夜間に来て、朝までの短時間で治療効果を期待するものではありません。
したがって、日中の主治医の数日~数週間の治療計画の中では非常に素晴らしい選択肢だと思うのですが、夜間救急においては選択肢にはなりにくいのです。

顧客のニーズからも外れると思います。
わざわざ夜間に救急でお越しになって、とりあえず「下痢をなんとかしてくれ」という方も多くいらっしゃいます。
ある一定の効果を期待されている方のニーズからは外れてしまいますので、それも理由の一つではあります。
*獣医療は、説明と同意の下成り立ちますが、かといって、顧客のニーズを最優先するわけではありません。
したがって、あくまでも理由のひとつに過ぎません。

整腸剤がいけないわけではなく、夜間救急という限られた条件のなかでは、選択肢になりにくいというだけのことです。
*治療に取り入れる夜間救急もあると思います。

筆者が夜間救急診療をおこなう動物病院では、いずれも「翌日以降、主治医で対応して頂くことで十分問題ないことは、あえて夜間救急で実施しない」というスタンスでやっております。
立場の違いだと思います。

犬・猫の急性下痢における下痢止めの適用

これは、人間においていえることですが、動物においても同様のことがいえます。

「体内の悪いものを出しているのだから、下痢は止めない方がいい」と考える方は少なくありません。
デトックス?的な考え方なのでしょうか。
この考え方は、一部のケースでは確かに正しいです。

細菌性の腸炎(カンピロバクターなど)の場合

下痢によって病原体を体外へ排出することが、症状の重症化を防ぐ上で重要となります。

米国感染症学会(IDSA)ガイドラインでも、特定の細菌性腸炎では下痢止めの使用を避けるべきとされています。

しかし、すべての下痢が「止めない方がいい」あるいは「止めてはいけない」というわけではありません。

むしろ、脱水症状や栄養不良を招く危険性がある下痢の場合には、適切に症状をコントロールすることが非常に大切です。

ウイルス性腸炎の場合

ワクチンで予防できる重症化するウイルス性腸炎(犬パルボウイルス感染症、犬ジステンパーウイルス感染症、猫パルボウイルス感染症など)は、嘔吐や下痢が続くと脱水が大きな問題となります。

また、症状が強く、動物が苦痛を伴ったり、飼い主のケアが大変だったりします。

こうしたケースでは、症状を一時的に和らげ、体力を回復させるために下痢止めを使うことが推奨されることも多いです。

実際、米国医師会(AAFP)の急性下痢に対する総評では、細菌性腸炎を強く疑わないような水様性下痢に対しては、下痢止めを積極的に使用することが推奨されています。

動物に対しての下痢止めの使用に関する禁忌と推奨

上述の通り、ざっくりと言ってしまうと、
細菌感染を疑う場合は下痢止めはダメ、それ以外は下痢は止めてあげた方が良い。
となります。

では、感染性下痢を疑う所見とは何なのでしょうか?

感染性下痢を疑う所見(下痢止めが原則として禁忌、あるいは慎重投与)

・39.5℃以上の発熱(犬・猫の場合で、他の動物は平熱を超えた場合)
・かなりひどい血便、粘血便がある
*そもそも下痢をすると、粘膜や血液は出る可能性があるため、それなりの血便・粘血便と理解して下さい。
・強い腹痛が疑われる(いつもと違う姿勢、呼吸が速い、お腹を触ると嫌がる、お腹に力が入っている、など)
・下痢が急激に発生、悪化している
・ゴミや腐ったもの、変なものを食べた可能性がある
・草むらやドッグラン、山中や河川、海に行った、海外渡航などがあった
・嘔吐、他症状も見られる
・簡易の便検査で、有意な菌の増殖を認める
・ワクチンをうっていない

こんな感じでしょうか。
どれか一つでもあてはまっていたらダメということはありません。
あくまでも総合的な判断となります。
特に、記載してあるとおり、粘血便はどの下痢でも発生しますし、下痢になれば多少の腹痛は大なり小なりあります。

下痢止めが推奨される場合

・激しい血便がない
・高熱(39.5℃以上)がない
・激しい腹痛がない
・水様性の下痢があり、水分の喪失が激しい、あるいはそれが予想される
・飼い主のケアが大変
・動物がツラそうにしている

獣医師の診察・検査を受け、細菌感染の可能性が低いと判断された場合は、下痢止めはむしろ推奨されると思います。

当然のことながら、これも総合的な判断となります。

まとめ

犬や猫が急性の下痢の際に、下痢止めは適正か?

感染性下痢でないことが想定される場合は、適正といえます。

特に、水分や電解質の喪失が予想される場合においては、「必要」になることも多いです。

動物の苦痛の軽減、クオリティオブライフの問題もあるため、筆者は原因不明の急性下痢の場合は積極的に使用しています。

原因に対する対処が最優先であることは言うまでもありませんので、
しっかりと検査を実施し、他の疾患を除外することが大切です。
原因不明・・・というのは、検査を実施しないで不明ということではありません。

まずは、ちゃんと検査を実施し、現在の状態をしっかりと把握した上で、対症療法を実施することを心がけています。
夜間救急においては、応急処置・対症療法が原則です。

ほとんどの急性下痢は、一晩の治療では完治しません。
数日~1週間は基本の治療期間として必要になることが多いです。
必ず主治医の指導の下で完治まで治療を行なって頂くようお願いします。

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執筆 K-VET

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