犬や猫の多頭飼育における誤食-どっちが食べたかわかりません!

診療ブログ
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タイトルが全てを説明していますが、先日、2頭で飼っていて、「どっちか、あるいは両方がタマネギをちょっと食べちゃったと思います」という方がいらっしゃいました。

見ると、お行儀良くチョコンと座っているワンコと、走り回っているやんちゃなワンコが待合室におります。

犬のタマネギ中毒

ご存知かと思いますが、犬や猫において、タマネギは中毒物質です。

タマネギ中毒の中毒量

体重1kgあたり約15~30gを摂取すると中毒症状が現れる可能性があると言われます。
しかし、体重の5g程度でも危険な場合があるとも言われます。
少量でも危険なことがあるため、万が一食べてしまった場合は『中毒量に満たなくても』必ず催吐処置を実施しています。

*タマネギ入りのすき焼きの、お肉を一切れとって、軽く水洗いしてから与えた犬がタマネギ中毒になったという事例を経験してから、最小中毒量というものやハザード指数というものを意識するようになりました。

催吐処置をすることのリスク

催吐処置については、それ自体がリスクがあります。
使用する薬剤の副作用、消化管へのダメージ(逆流症胃炎・食道炎など)、誤嚥性肺炎、場合によっては腹圧によるダメージや、各種反射によるバイタルへの影響もあります。
したがって、それだけのリスクを負ってまで、催吐する選択を取るか・・・という判断をすることになります。

タマネギ中毒の原因物質

タマネギは、有機チオ硫酸化合物のひとつであるn-プロピルジスルフィドという化学物質により、血液の主成分である赤血球の膜が酸化されて壊れてしまいます。
より厳密にいうと、ヘモグロビンをメトヘモグロビンへと変換を引き起こし、ハインツ小体の形成、溶血性貧血の形成を引き起こします。

タマネギに含まれる「有機チオ硫酸化合物」というわからない物質ですが、3種類有ります。
・sodium trans-1-propenylthiosulfate
・sodium cis-1-propenylthiosulfate
・sodium n-propylthiosulfate

これらが「有機チオ硫酸化合物」のカテゴリーに入ります。
しかし、sodium n-propylthiosulfate(n-プロピルジスルフィド)は揮発性なので、調理したら、消えそうなものなのですが・・・がっつり中毒を起します。
まだ、未知の部分があるのかもしれませんね。

タマネギ中毒の発現まで

意外と勘違いしている人が多いのですが、中毒物質というのは、その症状が出るまでの時間は様々です。

「今、すごく元気にしてるんで、大丈夫ですよね?」

と仰る方の多いこと多いこと・・・
昔の火曜サスペンス劇場の、青酸カリ服用ばりに、飲んで直後に死亡ということはほぼありません。

最低でも数時間、およそ8時間~24時間、場合によって1週間~10日と記載されている文献もあるようです。
そのため、摂取直後は症状が出るはずがなく、約1週間は要観察期間となります。
*催吐処置ができるのは、胃の中にタマネギがある時間(およそ1~3.4時間)となりますので、接種後は速やかに治療が必要です。

問診

さて、前提知識が長くなりましたが、実際の診察となります。

最も重要なことは、問診となります。
これが診察のうちで非常に重要です。

誤食において、第一に確認しなければならないことの一つに、
「本当に食べたのか」
ということです。

「食べたのを直接ご覧になりましたか?」それとも、「推測ですか?」。

これがものすごく大切な質問となります。

今回の飼い主さんの回答は
「食べたのは見ていないが、ほんの少量、残っていたのは間違いない。食べている姿は見ていないが、やんちゃな犬の方が、最後に皿を舐めていたのを見て、慌ててきた」
とのこと。

ようは、「見ていない」ということでした。

基本は、「飼い主さんの仰ることを鵜呑みにしてはいけない」というのがありますが、
とりあえず、今回の誤食については不確定事項があることがわかりました。

疑わしきは・・・最大限のリスクに備えよ

こういった場合、夜間救急の鉄則です。
最大限のリスクを想定し、現状ベストを尽くすべし!」ということです。

上述の通り、催吐処置を実施するリスクはあります。
しかし、それを踏まえて考えても、タマネギ中毒のリスクは大きいため、今回は2頭ともの催吐処置を実施しました。

まずは、犯人最有力候補のやんちゃな子・・・

レントゲンを撮影し、胃内に食差と思われる陰影あり。
血液検査を実施しつつ、催吐処置を実施。
見事に「タマネギ数切れ」を回収しました。

吐き気止め、胃粘膜保護材と、点滴を実施して、この子は無事に終了です。
 *検査の意義・必要性や治療内容については今回は割愛です。

怪しい子から少量のタマネギを回収できたことで、全て飼い主さんの仰ることと整合性はとれました。

つぎに、おとなしい行儀の良い子・・・

ここで、同伴してきた、おとなしい行儀の良い子までやる必要があるか?という疑問は湧きます。

しかし、、、やります。
実際に、催吐処置を実施するかどうかはおいといて、検査はします。

まず、「口から、タマネギ臭がする」という異常・・・

そして、レントゲン検査。
食事の量とは思えない胃の中身・・・
もう、疑いしかありません。

ということで、催吐処置を実施しました。

結果、めためた大量のタマネギが確認されました。
かわいく微笑む行儀の良いわんこを冷ややかな眼で見つめる飼い主さん。。。

あらためて、血液検査を追加実施し、治療は同様のことを実施しました。

答え合わせ

飼い主さんが少量といったからといって、それが本当に少量とは限りません。
あとで、ご家族の方に確認したら、「ちょっと残した」と「ちょっと食べた」を言い間違えたとのことでした。
ウソをつくこともあれば、勘違いのこともあります。
 *誤食させてしまった罪悪感からか、ちょいちょいウソもつかれます。

・少量ではなかった。
・実は、お行儀の良い子が主犯だった。
・やんちゃな子もちゃんと食べてて、共犯ではあった。

ということになります。

まとめ?

・不確定要素がある場合はバイアスに引っかからないようにする
・催吐処置については、それ自体がリスクがある
・中毒量はそれ以下でも危険と認識しておく
・中毒が出るまで時間がかかることが多いため、1~3時間を目安に来院する
 *それ以上の時間が経っていても、まずは動物病院へ!!!
・最大限のリスクを想定する

飼い主さんも、思い込みで行動することなく、あらゆる可能性を考えた上で対応することが必要となります。
動物病院スタッフが、ちゃんと順を追って質問・確認していきますが、推測を断定的にお伝えすることがないようにお気をつけ下さいね!

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執筆 K-VET

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