ペットがなんとなく調子が悪い、元気がない(不定愁訴)

疾病と治療
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ペットの犬や猫が、なんとなく調子が悪い気がする・・・
あるいは、なんか元気がない気がする・・・

そんなことはありませんか?

おそらくは、いつもそばにいる飼主さんだからこそ気付く機微だと思います。

主観的情報と客観的情報

獣医療における用語の解説ですが、主観的情報と客観的情報についてお話します。

主観的情報(S:subjective data)

飼い主さんとのコミュニケーションによって得られた情報のことを言います。
通常、カルテには言葉をそのまま記載します。

客観的情報(O: objective data)

患者さんの状態を獣医師や動物看護師などの専門家が、直接見た情報、あるいは計測した情報のことを言います。
ほとんどの検査結果はこれが多いですし、逆に検査結果は客観的情報であるべきです。
通常、カルテには観察したことや測定したことなどを記載します。

専門家であるかどうかでの違い

ここで、同じ情報のように見えても、主観的情報か、客観的情報かの違いがあります。

一般の人(多くの飼主さん含む)が「元気がない」と思った。
獣医師や動物看護士などの専門家が「元気がない」と思った。

上記は、実は全く異なる情報となります。

一般の人のものは主観的情報に分類され、専門家の情報は客観的情報になるのです。

*ゆえに専門家の情報はとても重要かつ責任重大となります。

自覚と他覚の違い

次に、自覚と他覚の違いについてお話します。

自覚

これは、本人が主観的に感知している状態を言います。

動物の場合は、自分で言葉で伝えることができませんので、一般に自覚しているかどうかは判断できません。
場合によっては、飼い主さんが代弁者として問診時に答えることによって、「自覚とみなす」ことはあります。

なお、この自覚している症状・徴候については、検査によって異常が検出できる場合もあれば、検出できない場合もあります。

他覚

これは、第三者(他人)が見て、検知できるかどうかによって判断されます。
つまり、他者が感知できる状態を他覚ありと言います。

本人に自覚があるかどうかは問いません。
自覚がある場合もあれば、ない場合もあります。

自覚と他覚の組み合わせ

・自覚があるが、他者が検知できない(他覚がない)
・自覚はないが、他者が検知できる(他覚あり)
・自覚があり、かつ他者も検知できる(他覚あり)
・自覚はなく、他者も検知できない(他覚なし)

これらの組み合わせがあることになります。

症状と徴候

言葉の説明、比較はこれで最後です。
ちょっとややこしいですが、ご理解ください。

症状 (Symptom)

本人が主観的に感知する心身の不健康感を言います。
自覚しているのが重要です。

つまり、動物は本来、自覚があるかどうかを言葉で伝えることがないため、獣医療においては『症状』という言葉を使うことはありません。

が、実際は、よく使われている印象です。

前述の通り、「飼い主さんのおっしゃることを動物の代弁として考えて」自覚とすることがあることと、ニュアンス的に症状という言葉で伝わりやすいというのがあります。

専門用語としての使い方は正しくありませんが、筆者も『症状』という言葉をメインで使用しています。

徴候(Sign)

客観的に検知できる(つまり、第三者が検知できる=他覚)心身の異常を言います。

自覚・無自覚は関係ありません。
つまり、他覚であることが重要となります。

実際の獣医療では、こちらが正しい専門用語となることが多いですね。
しかし、徴候は「ちょうこう」と読み、兆候などの同音異義語もあることや、「症状」のほうがニュアンスとして伝わりやすい言葉であることなどもふまえ、筆者はあえて症状という言葉を誤用していたりします。
あまり、厳密に考えすぎないほうがいいのかもしれません。

不定愁訴

ようやく本題です。

不定愁訴とは、検査をしても異常が検出されない、体調不良・元気がないことをいう医療用語です。
なんとなく調子が悪い、元気がないという自覚症状はあるものの、検査などの客観的情報として評価できず、他覚ができない状態です。
徴候もありません。
 *この一文のために、語句の説明をした次第です。

検査をしても何も異常が出なかったという事実をもって不定愁訴といいますが、診療開始前の無検査状態でも、暫定的に「不定愁訴」と言ってしまうことはあります。
徴候がない場合で、飼い主さんの訴え(≒自覚・症状)だけの場合は、不定愁訴としてフライングで取り扱うことが多いです。

不定愁訴ほど、楽観視して見逃してはならない!!

不定愁訴は、自覚症状(主観的)はあっても、他覚的な所見がありません。

なんなら症状は一定ではなく、その時によって程度も変化することが多いため、気のせいとか、勘違いだと思い込んでしまうこともあります。

他覚がないということは、つまり、獣医師が見て、「パッと見、なんの症状もない」ということになります。

具体的な徴候が出ていない以上は、ついそのまま様子見を選択してしまいがちです。

しかし、それが大きな見落としにつながることを経験的に知っています。

ここで大切なのは、症状がないということは問題ないということと必ずしも同一ではありません。
これは、なんとなくわかるかと思います。
別に自覚症状がなくとも、健康診断で病気が見つかることはよくあること。

しかし、不定愁訴は、自覚症状があるのに、検査をしても「何も異常が検出されなかった」というものです。

検査で異常が検出されなかった = 健康であり問題ない ではありません。

「検査した内容については異常が見つからなかった」だけです。
「検査していないところに異常が隠れている」可能性があります。

レントゲン検査では異常なしでも、血液検査でわかるということはよくあります。
「やってない検査で異常がわかる」ことは往々にしてあることです。

飼い主さんの主訴(≒自覚症状)の信頼性

動物は、自分の言葉で症状を伝えることができません。
したがって、厳密には「自覚症状」ではなく、飼い主さんがそう感じているだろうと推測しています。

専門家でもない飼い主さんの観察なので、不確かであることは間違いありません。

しかし、もっとも身近な観察者の飼主さんのおっしゃることはたいていの場合、正しいです。

我々専門家でも検知できない、なんとなくの違和感をちゃんと飼い主さんは感知していることが大変多くあります。

我々、獣医療スタッフが問診を重要視するのもこれがあります。

原因調査と現状評価のための各種検査を実施

問診からスタートして、視診・触診・聴診など一般身体検査を実施します。
まずは、見てわかる触ってわかる簡易な身体検査・バイタルチェック
つぎに、血液検査やレントゲンを実施します。
明らかにおかしい部分があるときは、そこにフォーカスして検査を実施します。
しかし、不定愁訴のような「なんとなく元気がない」というときは残念ながらノーヒントのため、手探り的に一通りのチェックとなります。

検査の必要性

具体的な徴候が出ているわけでもなくても、検査は絶対に必要だと考えています。

「検査においては異常が見つからなかった」というだけで、「検査していない項目で異常が隠れている」可能性があるからです。

異常が見つかるすべての検査を、際限なく実施するとまでは言いません。
しかし、一般的な検査である、血液検査やレントゲン検査、エコー検査など、健康診断でやるレベルの一通りの検査は実施します。

検査をしなかったことで見落としてしまうリスクは絶対に避けなければなりません。
せっかく飼い主さんが気付いてくださったのに、我々がスルーしてしまうわけにはいかないです。

『一番身近な存在である飼い主さんが「何か変」と言ってる以上、絶対にそこにはなにかがある』
我々専門家の獣医師を超えた観察眼を飼い主さんは持っているものです。

結果としては、「検査の範囲においては、異常は見つからなかった」としても、それは、「実施する必要がなかった」とか、「無駄だった」ということではありません。
「その検査において、異常が検出されなかった」という立派な結果が得られたのです。

この事実だけで、検査をした甲斐があります。

我々も無駄な検査は実施しません。

何も出なかったということ自体が、すごく貴重な検査結果だということを理解すべきです。

要経過観察の必要性

ひととおりの検査結果で異常が検出できず、結果として何も原因がわからなかったとします。
検査が無駄ではないことは上述の通りです。
繰り返しになりますが、検査で異常が出ない=健康であり問題なし ではないのです。

「飼い主さんの感じた違和感は専門家の検知よりも正しい」というのは、何度も経験しています。

今回はたまたま異常が見つからなかっただけで、
・なにか隠れた異常があるかもしれないこと、
・今は症状がないものの、これから何かしらの症状が出てくるかもしれないこと
これらを重々胸に刻み込み、しばらくは、要経過観察となります。

飼い主さんの違和感によって、検査を実施、結果として異常が見つかることも多々あります。
そういった声に耳を傾け、見過ごすことなくしっかりと検査を実施、リスクに備えることが大切だと思っています。

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執筆 K-VET

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